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  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授

第105回 アメリカ留学の大学選び―多様性の認識、リサーチ・マインド、Critical thinkingをベースに

アメリカは多様性そのものです。何事であれ予測が難しく予断は禁物です。自分でしっかり調べて事を進めなければなりません。当然、アメリカ留学にも当てはまります。それぞれの大学がそれぞれの地理的、文化的、社会的背景に根付いて設立されています。多様であるからこそ自由な選択が許されるのです。

国名からして多様性を感じさせます。The United States of Americaの日本語訳は「アメリカ合州国」ではなく「アメリカ合衆国」です。アメリカ50州にワシントン特別区を加えた州の連合ということを強調すれば前者かなと思えるし、民主主義に基づいた共和国(republic)ということを強調すれば後者かなと思えます。もし後者なら、The United Peoples’ Republic of Americaみたいな国名の方が良いのかと思いますが、筆者自身、長きにわたるアメリカでの体験から、両方を感じます。ずばり地理的かつ社会的に複雑です。(*1)

西部、中部、東部、南部などはまさに別世界で、それぞれに複数の州が混在し、それらがまた違うのです。たとえば、南部。ミシシッピ州、アラバマ州、ルイジアナ州などの深南部と、バージニア州、ノースキャロライナ州 、サウスキャロライナ州 、ジョージア州はそれぞれ違った顔を持っています。さらに、ウエストバージニア州やケンタッキー州やテネシー州など、それぞれが独自性を保持しています。一つの州をとっても、例えば、カリフォルニア州の場合、Southern CaliforniaとNorthern Californiaではまったく違うのです。

さらに、各州を構成する人々の複雑な人種的背景が加わります。筆者のカリフォルニアの親友は、母方がフランス系で父方がスコットランド系と言われて育ちましたが、後に祖父が4分の1チェロキーであることが分り、自分の中にその血が流れていることを知りました。また、彼の妻は日系3世ですから、長女はそれらすべてが引き継がれることになります。このように、一人ひとりそれぞれのethnic backgroundを持ち、それに伴う文化を持っているのです。

アメリカ社会は実際に住んでみなければ分りません。十把一絡げでは語れないのです。日本のマスコミなどで紹介されるアメリカ情報の多くはニューヨーク発で、それが全米に当てはまるものかどうかは精査が必要です。ニューヨークがアメリカの中心で、そこでの見方がそのまま地方に浸透していると考えるのは大間違いです。ニューヨークは単なる一地方なのです。(*2)特定の情報源に依存せず、自分の目で見て確かめる、これがアメリカを知る上で最も大切なことです。この度の大統領選も長くアメリカの各地を回り、人々と接し、その実体験や実感から行われた予測が当たり、ニューヨークなどの大都市に本部を置く新聞や報道のキー局は見事に予測を外してしまいました。

日本も北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州などの地域性はありますが、多くのことで中央集権的であり首都がある東京が中心で、情報も物流も迅速に地方に浸透します。外国人が増えてきたとは言え、ほぼ単一民族国家です。危険なのは、外国について語る時に、他の国も同じように中央集権的であるかのように錯覚してしまうことです。特にアメリカは50の州政府(state government)があり、それぞれが州法を持ち、その上に連邦政府(the Federal Government)があって、連邦法で国全体を統括しています。

それぞれの州はプライドが高く独自性を誇示しますから、日本では考えられない地域多様性があり、それに人種に関わる背景が加わりますから、筆者の体験からも、何ごとであれ社会調査は大変です。(*3)アメリカでpragmatismの動きが起き、特に、リサーチ・マインド、critical thinking, freedom of speechなどが重視されるようになった背景はここにあるかもしれません。あまり多様ではない日本のような社会では、中央集権的な考え方やそれに伴う情報の流れが主流になり、こうしたスキルの必要性は薄くなるかもしれません。

前置きが長くなりましたが、アメリカの大学は、公立はもちろんのこと、私立も地域社会と密着して存続しており、とても多様です。読者の皆さんがアメリカで学ぶとしたら、大学を選ぶ時点から、多様性の認識、リサーチ・マインド、critical thinkingが不可欠です。まず、自分が本当に何を学び将来何をしたいのか真剣に考えます。それにより専攻が決まります。(*4)

さて大学選びです。もちろん、まず主要な格付け会社のNational University Rankings(米国内大学ランキング)を調べてみます。ここからcritical thinkingが始まります。考慮には入れますが、単なる一情報ですから、鵜呑みにせず、それらが依拠する評価基準が自分の大学選びの基準に合っているか考えましょう。大学や上場企業の経営者からの評価、専任教員数、新入生進級率などは、筆者が留学アドバイスをする時にはあまり重きを置かなかった項目です。他の基準はどうでしょうか。厳しくチェックしてみましょう。

次に、候補に挙げる大学の年次ごとのAnnual Financial Reportを調べます。どんな方針でどのような教育を目標にしているかが書かれており、その為に予算をどのように配分してきたか、学長はじめ担当副学長らがそれぞれの項目について緻密に書いているはずです。特に外国人留学生についてどのような姿勢でどのような支援をしているかを厳しくチェックしましょう。分らないことがあれば質問できますからメールしましょう。必ず返事が返って来るはずです。来なければ留学先の候補から外せばよいだけです。

関連して、留学先に選んだ大学の経営状態を調べておきましょう。いくつかの外部調査機関がありますが、その一つに2016 Forbes College Financial Gradesがあります。大学の経営状態をA(over 4.0)、 B(over 3.0)、 C(over 2.0)、 D(below 2.0)で格付けしています。恐らく、B以上の大学なら大丈夫でしょう。これさえ、単なる一資料です。他の格付け会社の評価も含め、また、それぞれの評価基準をしっかり吟味して考えてみましょう。主として私立大学の評価ですが、現在、州立大学の中にも廃校が噂されているところがあり、厳しくチェックすべきです。留学先の大学が廃校になってしまったら大変です。

幾つかの大学に絞れたら、それぞれを詳しく調べます。筆者らの時代には各大学が発行している案内書(school catalogue/bulletin)を参考にしました。何度もアメリカ文化センターに通い、メモを取りながら読んだのを覚えています。今はネットで検索すれば瞬時に見られるのですから便利になりました。通学中にスマホでも見ることができます。アカデミック・ライフに要する基本用語に触れることで読解力が身に付きます。

では、例として州立の名門、University of California at Berkeley(UCB)を例に挙げて調べてみましょう。The Times Higher Educationでは、2017年世界ランキング10位(The World University Rankings 2017,10th)で、国内ランキングは37位(US College Rankings 2017, 37th)です。List of Nobel laureates by university affiliationによると、過去ノーベル受賞者は92名おり、2017年現在7名が教鞭を執っているとのことです。(*5)

余談ですが、筆者が初めて渡米した1968年、UCBは当時絶大な人気を誇った映画The Graduate(「卒業」)でElaine Robinsonが通うキャンパスとして紹介され名前が知れ渡っていました。地域ではCalの愛称で親しまれ、1964年にThe Free Speech Movementを起こすなど、大学はもちろんそれを支えたBerkeleyの街全体がリベラルな雰囲気に包まれ、ヒッピー・カルチャーのメッカとしても有名でした。

University of California Berkeley:Homeを開いてみましょう。創立は1868年で、日本では明治維新の頃です。勝海舟や福沢諭吉らが咸臨丸で西海岸に寄港した1860年にはありませんでした。福沢が創設した慶應義塾は1858年ですからその10年後に設立されたことになります。それはともかく、About, Admissions, Academics, Research, Campus Lifeの項目をクリックして読むと、この大学の概要が見られます。

気になるのは授業料です。Admissions→Tuition→UndergraduateのNew Students Nonresidentsを見ると総額$21,584.25(×111円として約240万円)です。留学生を対象に奨学金または助成金が出るか、Financial Aidもクリックしてチェックしましょう。先生対学生の比率は1対17です。私立ほどではないですが、州立としてはまあまあでしょう。(*6)

概要をつかめたら、取りたいコースがあるか、どのような教授陣がいるかを調べます。非常に大切な情報です。Academic departments and programs/University of California, Berkeleyを開きます。約170のDepartments/Programsがあるそうです。凄いですね。A-Z(実際にはWまで)のキーがありますので、例えば、数学ならMをクリックして更にMathematicsをクリックします。

About, People, Research, Degree Programs, Coursesを見て、自分が勉強したいことがあるかチェックします。

重要なのはどういう先生がいるかです。Peopleの項目のFacultyをクリックして見てみましょう。それぞれの先生たちが何を専門にしているか、学歴、職歴、研究業績も含めて見ることができます。また、全員がメール・アドレスを記していますので、分らないことがあればメールを出してみましょう。恐らく返事がくるでしょう。中には自分のWebsiteにリンクを張り更に詳細な情報を提供してくれている先生もいます。

余談ですが、気になることがあります。Peopleの項目のGraduate Studentsをクリックしてみると、他のアジアの国々からの留学生はたくさんいるのに、日本人留学生や日系人らしい学生が皆無であることです。筆者のアメリカ留学滞在中の1970年代には、殆どが日本人留学生で占められていたのに比べると危機感を感じます。

余白が限られているのでここまでにしますが、例えば、UCBに興味を持ったとしたら、このように自分で徹底的に調べて納得することです。日本の受験界でよく見られる偏差値による大学や学部選びは通じません。偏差値が高いから~大学~学部にといった風潮は通じないのです。自分は何故この大学、この学部を選んだのかについて志望動機を書いて提出しなければなりません。相手を説得しなければならないのです。

多様性に富む国では、職業においても多様性が評価され、何をどう学んだかが評価され、大学の名前などは不問です。教育の現場でも、卒業した高校とか大学の名前は一切不問の実力主義です。ということは、自分のニーズに合う勉強したい大学、学部をしっかり選ぶことです。The Times Higher Educationなどの格付け会社による大学のランキングなどは単なる一参考材料であって、それだけにとらわれて大学を選ぶと大失敗します。

また余談になりますが、筆者がもし現在、高校生や大学生でこれから留学し、言語・コミュニケーション論を探求したいと仮定すると、The Times Higher Educationで世界トップ10にランキングされている大学には、筆者のニーズに合うプログラムがないので行かないでしょう。筆者が卒業した母校Georgetow University についても同じくです。

もちろん、留学する前にピンポイントにドンピシャリに選べないかもしれませんが、幸いなことに、アメリカは途中で他大学に移ることができますし、大学院は、学部とは違う大学の大学院を選ぶというのが通常化しています。どこの大学を出ようとも、実力さえあればどこでも受け入れられますし、途中で軌道修正は可能なのです。

特に、Law School, Medical School, Business Schoolなどのプロフェッショナル大学院に当てはまります。ちなみに、1960年代~1970年代のUCB大学院では、UCB学部を卒業した者は他の大学院に行くようにと勧告さえしていました。今は定かではありませんが、各大学の若手教授陣の学歴、職歴を見ると複数の大学の学位を持っていることが分ります。このように多様性を尊ぶ姿勢が各所に表れています。

国内外の政情が不安定になりつつあります。アメリカも同じです。しかし学問の世界は自由で壁を立てることはできません。研究者同士が自由に瞬時に結びつくグローバル化の動きを何人たりとも止められないでしょう。本場で学べる留学はその最前線にあります。本場として、何事にもめげずにプライドを持ち死守し続ける高等教育機関のみが生き残れるでしょう。留学生もその一端を担うのです。

(2017年2月7日記)

 

(*1) 筆者は1968年以来、ケンタッキー州(2か月)、ルイジアナ州(3か月)、カリフォルニア州(約4年)、ハワイ州(1年)、ワシントンDC/バージニア州(約5年)に住んだ経験を持ち、45州を除きほぼ全州を車で走破し人々と交流しました。各地に知人がおり今でも交流しています。
(*2) 日本でいうニューヨークはニューヨーク市(New York City、略称はNYC、封筒の宛書きはNew York, New York)を指す場合が多いですが、New Yorkは州ではその一部です。ニューヨーク州も多様ですし、NYCも幾つかの地区に分かれ多様で、それぞれがリッチな社会・文化を誇ります。
(*3) 例えば、1974年に大学院の社会言語学の授業でワシントンD.C.における英語(発音、nineなどにおける母音の鼻音化)の調査をしたことがあります。D.C.だけでも人種、地域、階層、年齢、職業による多様性に圧倒され、単純な一般化をしてはいけないと痛感しました。後に、英語の多様性を評価できる英語教育の必要性を認識させる原体験の一つです。
(*4) 以前、本コラムで述べたとおり、留学の醍醐味は「本場」で学ぶということです。まず自分の領域の本場がどこかを確認すべきです。各領域の権威ある英文国際学術ジャーナルを探し、掲載記事の参考文献にリストされている著書、論文の著者がどの国のどの研究機関にいるかをチェックするだけで大雑把な情報が得られます。
(*5) ノーベル賞は特定分野の賞ですから、それ以外の分野についても何らかの学術賞があるかもしれません。調べてみましょう。(*2)で述べたように、各領域の主要な国際学術ジャーナルをチェックするのもよいでしょう。
(*6) 単純にUCBの授業料が高すぎるとしたら、例えば、California State University, San Diego とかCalifornia State University, Los Angelesなどもチェックしてみます。University of California(UC)システムより、California State University(Cal Sate)システムの方が授業料は安いでしょう。平均点B以上あれば2年時か3年時にUCのキャンパスにtransferできるはずです。

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