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  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授

第108回 アメリカの大学のセメスター制と日本の大学のセメスター制の違い

アメリカの大学は、セメスター制かクオーター制のどちらかを採用しています。セメスター制は学年を2つに、クオーター制は4つに分けます。(*1)セメスター(semester)は6か月を意味するラテン語に由来し、クオーター(quarter)は4分の1を表すラテン語に由来します。実質の長さは、6か月(セメスター)または3か月(クオーター)ではなく大学により多少異なります。(*2)おおむね8割の大学がセメスター制を、2割がクオーター制を採用しています。

日本でもセメスター制を導入する大学が増えてきましたが、アメリカのセメスター制とはフォーマット上で大きな違いがあります。学生として、また教員として日米のセメスター制を体験した筆者の正直な印象は「似て非なるもの」です。留学前に是非とも知っておくべき情報の一つでしょう。知らずに留学するとかなり戸惑うことになるでしょう。

日本の大学は長く通年制を採用してきました。学年度開始時(4月初頭)に登録した授業の履修は学年度終了まで続きます。前期と後期がありますが、1学年続く授業の前半と後半という意味です。前半に中間試験(またはレポート)、後半に年度末試験(またはレポート)で最終成績を出します。

筆者が学んだ1960年代の慶應義塾大学文学部では、講義科目は通年4単位、外国語などの演習科目は通年2単位で、1学年に履修できる卒業単位数の上限は決まっていましたが、1年次と2年次にその上限ギリギリの10科目以上の授業を履修していたと記憶しています。通年制で各授業は90分で週1回、休日や休講で授業がつぶれ、2週間ないしそれ以上も空くことがありました。

それに夏季と冬季の2回の長期休暇が入り、10科目以上も履修していたにもかかわらず、年度末試験期間の1月末は多少忙しくなったものの、学年を通して時間的に余裕がありました。途中、中だるみする時期もあり、休講や休日が重なると履修者のほんの一部しか出席していない大教室の授業は珍しくありませんでした。古き良き時代と懐かしく思う反面、何もしなくても学生が集まった時代であったからこそあり得たものと述懐せざるを得ません。少子化で学生の数が減り競争が激しくなってきた昨今、大学教育改革が叫ばれるや、そうした通年制からセメスター制に切り替える動きが主流になりつつあります。

そんな背景で導入したセメスター制ですが、通年制を2分割しただけでは、という印象が拭えません。学年を2期に分け、1期ごとに最終成績を出して閉めるという点まではアメリカのセメスター制と同じです。しかし、それ以外はアメリカのセメスター制とはフォーマット上大きな差異があります。日本の大学におけるセメスター制のフォーマットを見ると、その成り立ちにおいて、大方、以下のような方法が取られたのでは、と推察されます。

 

(1)通年制の授業を2分割して、前期と後期に分けて2つの半期制の授業にする。
(2)通年で教えていた授業の内容を2分割し、前半部を前期の授業で、後半部を後期の授業で教える。
(3)それに伴い、講義科目は通年の4単位から2単位に、演習科目は2単位から1単位に調整する。

 

確かに、通年制に欠けていた緊張感があり中だるみ感が解消されましたが、通年制を2分割しただけで通年制のフォーマットが維持され、授業は1コマ90分で週1回という原則は踏襲されてしまいました。セメスター制にもかかわらず学生は10コマ近くもの授業を取るケースが多々あります。(*3)これがアメリカにおけるセメスター制と根本的に違う点で、教育の質に影響を及ぼしかねず、早急に対策すべき重大事であると感じます。

セメスター制にして授業が改善されたことは確かです。ただし、良い授業が多ければ多いほど、学生のワークロードは増えます。それが3コマや4コマならまだしも10コマ近くにもなると過剰になります。1990年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスが開設され、日本の大学としてはまだ珍しいとされたセメスター制が導入されました。筆者も同大学経済学部から当キャンパスに移籍し、講義科目(学部・大学院の言語コミュニケーション論、プロジェクト)と演習科目(英語)を担当しました。

開設当初からユニークで発信型の活気ある授業が多く展開されました。しかし、各セメスターに7コマ以上10コマ近くの授業を履修する学生側から、それらの授業すべてに全力を注ぐことは物理的に無理だとの感想が寄せられました。どんなに活気あって良い授業でも、発信型の授業は必然的にワークロードが多くなる傾向があり、かえって敬遠されてしまうという危惧が生まれました。一見アメリカのセメスター制と似ているようで異質なものとの印象を持ったのは筆者だけではありません。

対策は簡単です。セメスター制やクオーター制は、短期間集中して勉学することに効果を発します。通年制はその逆に長期間かけてゆっくり勉学することに効果を発揮します。前者では1学期の履修科目数を絞らなければ効果は半減します。そのためには各授業を週2回(180分)にして、講義科目4単位そして演習科目2単位にすれば、今まで通年で教えていた内容をカバーできますし、履修コマ数も半減します。

しかしながら、そのためにはプログラム全体を考え直さなければならず、通年制に長く慣れ親しんできた大学や学部にとって簡単なことではありません。例えば、それぞれの学部で序論とする授業一つ取っても、提供するプログラムにとって何が基盤知識であるかを議論して合意しなければなりません。様々な思惑が交差し合意点に達するのは至難の技です。

そこで、通年制科目を単純に2分割して、例えば、通年で行なっていた「〜学序論」を「〜学序論I」を前期に、「〜学序論II」を後期に開設するといった当たり障りのない方法で対処してきたように思えてなりません。これでは、科目数は多いままでセメスター制にした意義が半減します。

アメリカの大学のセメスター制はそれとは大分趣が違います。筆者自身、約50年前にアメリカの大学の授業を受けてその違いと効率の良さに驚き、1年で帰国して日本の大学院に戻る当初の計画を撤回し、アメリカに残ることを決断させた要因の一つとなりました。

University of California at Berkeley(UCB/カリフォルニア大学バークレイ校)を例に比べてみましょう。University of California System(UCSカリフォルニア大学システム)は、カリフォルニア州全域に10キャンパスがあり、その一つがUCBで、University of California at Los Angeles(UCLA)と共にWorld Top Universitiesにランクされ、本コラム(第105回 アメリカ留学の大学選び―多様性の認識、リサーチ・マインド、Critical thinkingをベースに)で紹介した通り、アメリカの州立大学を代表するエリート校です。カリフォルニア州の財政が危機的状況にあるため、日本の多くの国公私立大学と同様に財政難を抱えていることや、日本の主要大学が設立されたのとほぼ同時期に設立されていることから、良い比較対象として選びました。(*4)

UCSのほとんどのキャンパスがクオーター制をとる中でUCBのみがセメスター制を取っています。2017-18 Berkeley Academic Calendar(PDF)(*5)より、2017−2018 Academic Yearのスケジュールの大枠のみ拾って見ると以下の通りです。

 

   Fall Semester Spring Semester
セメスター開始  2017年8月16日 2018年1月9日
授業開始  2017年8月23日 2018年1月16日
授業終了  2017年12月8日 2018年5月4日
期末試験  2017年12月11日−15日 2018年5月7日−11日
セメスター終了  2017年12月15日 2018年5月11日

 

各セメスターには、授業開始前1週間のオリエンテーションを、授業終了後は期末試験(準備期間も含め)を除くと、授業開始から終了までは約15週間あります。また、秋のThanks Givingの時期や春のEasterの時期に合わせたsemester breakという小休止も含まれており、(*6)総授業週は日本のセメスター制とほぼ同じか、やや長めという感じでしょう。(*7)

UCBの数多ある学部やプログラムから、Department of Economicsの学部のプログラム(The Undergraduate Program in Economics)を見てみましょう。Webブラウザで“Berkeley Economics”と入力し、一番先頭にリストされている“Department of Economics| University of California, Berkeley”にリストされている“Courses”の項目をクリックします。“Course Type”と“Level”と“Semester”の3つの項目があります。まず、“Course Type”の項目の“Lecture”を選択し、次に“Level”の項目の “Undergraduate”を選択し、更に“Semester”の項目の“Fall 2017”を選択し、“Apply”のキーをクリックします。UCB EconomicsのFall Semester 2017に設置されているLectures(講義科目)の一覧表が出てきます。筆頭にある“INTRO TO ECONOMICS(13826 1)”と称する授業をクリックすると、このTimeは、毎週MondayとWednesdayの8:00am-8:59amに週2回あると記されています。

同ページ横にある“RELATED LINKS”の項目から“Course Descriptions”の項目をクリックして開いてみましょう。この授業は4 Units(単位)で、Fall Semester 2017とSpring Semester 2017(Summer 8 Week Session 2017)で設置されていると記されています。更に、同ページの“Read More”という項目をクリックすると、“Hours & Format”という項目があり、“Econ 1 Introduction to Economics”(Fall and/or spring) は、“Lecture”が週2時間(120分)それ以外に“Discussion”が週2時間で、15週間あると記されています。

その“Discussion”に関しては、上記の”Courses”に戻り、”Course Type”の項目の“Any”を、“Level”の項目で“Undergraduate”を、“Semester”の項目で“Fall 2017 ”を選択して“Apply”をクリックすると、“Econ 1 Introduction to Economics”の“DIS(cussion)”授業が20数個出てきます。いずれも60分週2回(計120分)で、受講者はその一つを選びます。つまり、“Econ 1 Introduction to Economics”という授業は、主任教員の“Lecture”(2時間)+少人数制“Discussion”(2時間)の都合週4時間で4単位という構成です。UCBの授業のほとんどがこのフォーマットで行われ、この授業以外にも多くの“Lectures”と“Seminars”と“Field Studies(Independent Studies)”などのコースがリストされています。中には、週1回3時間というものも見受けられます。

卒業に要する総単位数については、恐らく、各学部、プログラムにより違うものと思われます。大学全体で1セメスターに履修できる上限単位は15単位で最低13単位は取らなければならないと規定されています。(*8)

ほとんどの授業が4単位なので1セメスターに授業4つ取るので精一杯でしょう。許可を得ると5つ取れそうですが、外国語などの演習科目はインテンシブ・コースが多く、それと重なる場合は勧めていないようです。各授業にかなり集中できますし、また、集中しなければ合格できないでしょう。クオーター制になると時間的に更に厳しくなるというのが、筆者を含め、両制度を体験した多くの人の印象であると思います。

日本のセメスター制をアメリカのセメスター制に調整してみましょう。仮に、「経済学序論1」と「経済学序論2」の2つの授業があるとします。前者は通年制で行われていた「経済学序論」(仮定)の前半部をカバーし、後者はその後半部をカバーしてそれぞれ90分週1回で2単位ずつとします。これをUCBなどのアメリカのセメスター制フォーマットにすると、「経済学序論1」と「経済学序論2」の2つを合わせて「経済学序論」に戻して4単位にします。そして主任教員による60分の「講義」が週2コマ、そして60分の「ディスカッション」が週2コマで構成されます。UCBでは1時間(60分)を1単位と考えているので、4単位で総計240分になります。(*9)

当然、どの講義もワークロードが増えます。経済学部ですからそれに並行して「統計学初級」や「数学」も履修するでしょうが、それらの授業も同じフォーマットで行われているはずです。これら3つのクラスを履修すると、それだけで計60分が12コマ、それに外国語などのCore Curriculumコースからの1、2の授業が加わると、各セメスター4つ、無理して5つというのが精一杯であることがお分かりになると思います。

UCBのカリキュラムを見ると、“Econ 1 Introduction to Economics”などの経済学の全コースのprerequisite courses(*10)として指定されている授業は、Fall SemesterとSpring SemesterとSummer Sessionに開設されています。すなわち、1年を通してどの学期にも開設されており、不合格になっても次の学期で履修できます。不合格になった場合、1年待たなければならないのみか、prerequisiteとされているコースの場合、次のコースも取れないという最悪の状況から逃れられます。

アメリカのトップ大学はセメスター制にせよクオーター制にせよこのようなフォーマットで授業を編成し、長い歴史を有し、それぞれがその利点欠点を考慮して改善してきました。UCBのDepartment of EconomicsのCoursesとCourse Descriptionsを見るだけでも、日本の多くの大学のセメスター制とアメリカのそれとは質的に違うのが分かるでしょう。

筆者は留学当初英文学を専攻していましたが、それまで日本で受けた通年制の英文学の授業とアメリカでの授業とのあまりにも大きな違いにショックを受けました。シェイクスピアの授業を履修したところ、1クオーターで主要な悲劇作品のほとんどを読まされ、2つのペーパー、そして、中間と期末試験を受けなければなりませんでした。その他に3クラスも履修していましたから多数の英文学作品を読むことになりました。1年後に帰国して日本で博士課程に進もうと考えていた当初のプランを即捨てるきっかけになりました。

UCBのサマーセッションは8月10日まであるようですから、許可を得て聴講できるかもしれません。また、日本の大学が春休みになる3月に行けばSpring Semesterの様子も見ることができます。アメリカの大学生と直接話してみてください。直接体感するのが一番です。

(2017年6月8日記)

 

(*1)その他に、ごく少数ですが、1年を3つに分けるtrimesterという制度を採用する大学もあります。
(*2)各大学はAcademic Calendarにてセメスターないしクオーターの開始日と終了日を含む詳しい日程を明記しています。
(*3)筆者が1980年代に教鞭をとった慶應義塾大学経済学部も半期制を導入しているようです。卒業単位は126単位です。1980年代の学生の多くは、1、2年生時に約40単位近くの授業を履修していました。通年制では講義科目と外国語などの演習科目を入れ、10コマ以上の授業を履修していたと記憶しています。恐らく、現行の半期制になっても1学期に10コマ程度の授業を履修しているものと考えられます。
(*4)カリフォルニアにはCalifornia State University(CSU)システムがあり、全州に23のキャンパスがあります。元々は教員養成を目的にカリフォリニア各地に設立されました。筆者はCalifornia State University at Hayward(現Eastbay)で英文学の授業を取りながら、日本語を教えた経験があります。ちなみにクオーター制を採用していました。
(*5)2017-18 BERKELEY ACADEMIC CALENDAR(PDF)
(*6)大学生の多くは帰郷してしばし家族と共に過ごします。日本のゴールデンウィークとよく似ています。
(*7)Spring Semester終了後にオプショナルのSummer Sessionsが開かれます。詳しい日程は2017-18 BERKELEY ACADEMIC CALENDAR(PDF)にあります。2018年7月23日−8月10日のThree-Week Sessionは、日本の大学生の中にも夏季休暇に入る人もおり、辛うじて間に合うかもしれません。
(*8)In general, a standard course load is 15 units of course work per semester. L&S requires all students to take 13 units minimum each semester, except in cases where the dean has approved a course load with fewer units. (Berkeley College of Letters and Science https://ls.berkeley.edu/advising/planning/enrolling/course-load-limitsより抜粋)
(*9)筆者が1980年代に教鞭をとったことがある慶應義塾大学経済学部もセメスター制を導入したようです。UCBも経済学部を例にしたので、比較例として同大学同学部の公式ホームページ「慶應義塾大学-塾生HP-経済学部Keio University」より「三田キャンパス経済学部」の「時間割」を参照しました。
(*10)A prerequisite courseは「前以て履修しなければならない必修コース」です。あるコースを履修する際に、前提条件として履修し合格しなければならないと指定されたコースのことです。“Introduction to Economics 1 is prerequisite for Introduction to Economics 2.”

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。