For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授

第112回 『第6回 科学の甲子園全国大会』優秀校「2017 Science Olympiad National Tournament参加に向けた英語研修」

『第6回 科学の甲子園全国大会』(国立研究開発法人科学技術振興機構主催)(*1)は、2017年3月17日~3月20日の4日間、茨城県つくば国際会議場で開催され、県立岐阜高等学校(*2)が優勝しました。優勝校は同年5月に開催されるアメリカの2017 Science Olympiad National Tournament(*3)(略称2017 SONT)に参加します。

2015年度と2016年度に続き今年度も参加までの日程を利用し、国際教育交換協議会(CIEE)日本代表部主催によるSONT参加準備のための英語研修が設けられました。(*4)筆者は本研修の担当者として当初より本研修の企画、運営、実践に携わって参りました。本年度の研修は当然過去2回のノウハウを踏まえており、過去2回の報告を参照しながら本年度の報告をお読みいただきたいと存じます。

2015年度優勝校の渋谷教育学園幕張高等学校の英語研修報告

2016年度優勝校の愛知県海陽中等教育学校の英語研修報告

Science Olympiad(略称SO)は、小学生(Division A)、中学生(Division B)、高校生(Division C)(*5)の3部門で構成され、K-12におけるサイエンスの一貫教育の確立と向上を謳っています。それに応えて、本英語研修プログラムも、高校生のみならず、小学生と中学生そして大学生にも応用できるよう開発し、実践しております。

最初に、2017 SONTのeventsについて概要のみ説明します。これらeventsの詳細は2015年度と2016年度の報告書を参照してください。SOの設立の経緯、歴史、主旨、目的、そして、National Tournamentの意義など、events参加に不可欠な背景的情報もまとめてあります。

2017 SONTのDivision Cは、5分野23 eventsで競われます。広いscienceの領域をバランスよくカバーし、それぞれのeventが複数領域に関連していることがわかります。

Life, Personal & Social Science(5 events)
Anatomy and Physiology, Disease Detectives, Ecology, Herpetology, Microbe Mission.
Earth & Space Science(4 events)
Astronomy, Dynamic Planet, Remote Sensing, Rocks and Minerals.
Physical Science & Chemistry(6 events)
Chemistry Lab, Forensics, Hovercraft, Material Science, Optics, Thermodynamics.
Technology & Engineering(4 events)
Helicopters, Mission Possible, Mousetrap Vehicle, Towers.
Inquiry & Nature of Science(4 events)
Experimental Design, Fermi Questions, Game On, Write It Do It.

これらeventsはそれぞれ、また、別の角度から(1)Science Processes、(2)Science Concepts and Knowledge、(3)Science Processes and Thinking Skills、(4) Science Application and Technologyのいずれかに分類されます。

さらに、(1)Knowledge-based(例Astronomy)、(2)Hands-on(例Forensics)、(3)Engineering-based(例Bridge Building)のいずれかに再分類されています。このようにして、多様なscienceに対応できる柔軟性、創造力、行動力を多角的かつ総合的に競わせるトーナメントであることがわかります。アメリカ各州の代表校は、優勝を目指すには23 events全てで好成績を残さなければなりません。多様な能力を持つメンバーが一丸となって競うわけですから総合力を有するチームが有利です。最終結果はSOのOfficial Siteで公表されており、全参加校の成績、成績別順位、各event 6位までの優秀校、今年度優勝校写真などを見ることができます。

Final Results for Division C - May 20, 2017

Rank Order for Division C - May 20, 2017

Top 6 Places for Division C

Troy High School Official Team Winner Photo(JPG)(*6)

2017年科学の甲子園全国大会優勝校の県立岐阜高校8名の参加者は、Global Ambassador Team from Japanとして招待され、23 events中のForensics、 Helicopters、 Game On、 Write It Do Itの4 eventsに参加しました。その結果と参加者の報告・感想は、TOEFL® Web Magazine2017年10月号の以下の対談に掲載されています。

第6回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―前編

第6回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―後編

今年度の本英語研修は、県立岐阜高等学校にて、Session 1とSession 2の2回に分け、それぞれ2017年4月5日と5月9日に実施しました。以下、研修の骨子と活動内容の概要を述べます。(*7)

CIEE ENGLISH TRAINING SESSIONS FOR 2017 SCIENCE OLYMPIAD NATIONAL TOURNAMENT

―SESSION 1―

13:00 to 16:00 pm April 5, 2017.
At Gifu Senior High School.

1.オリエンテーション

(1)2017 Science Olympiad National Tournament(hereafter 2017 SONT)英語能力について。日常コミュニケーションは言うに及ばず、2017 SONT のeventsに関する膨大な情報を理解して討論する英語能力を要する。本研修を受けてSONTに参加した過去2年の参加者は、そのことを痛感し、英語学習への意欲が高まったとの感想。
(2)主催団体Science Olympiad(SO)のOfficial Siteおよび 2017 SONT Official Siteを開け、歴史・背景・趣旨・目的、参加eventsなどについて触れる。
(3)準備からevents当日まで、全員一丸となり2017 SONTに取り組むことを決意し、県立岐阜高等学校スピリットに基づく百折不撓 Project(*8)を立ち上げる。
(4)いつ、どこで、何を、どのように準備するか綿密な計画を練る。
(5)TOEFL ITP® テストの簡易版を使用し、本研修前の英語能力の診断をする。
(6)2016 SONTの優勝校、カリフォルニア州サクラメント市のMira Loma High School Official Siteを見る。

2.英語研修活動(*9)
Step 1 2017 SONT中のアメリカの高校生、学校関係者、大会関係者と交流の場で、(*10)英語でコミュニケーションできるように準備する。中学校より学習してきた英語を発信モードに替える。生徒、先生、筆者、CIEE根本氏、報道関係者が全員立ち、一ヶ所に集まって日本語で自己紹介、趣味・関心事などを話し合う。コミュニケーションする雰囲気が出たところで、英語に切り替えて自己紹介や趣味・関心事について情報交換をしながらコミュニケーションする。都合20分。全員が英語でコミュニケーションする感覚をもつ 。
Step 2 2017 SONT Division C Eventsのサイトを開いて読み、参加4eventsを決定する。Write It Do It、Forensics、Game On、Helicoptersの4つを選ぶ。
Step 3 各eventの担当を決める。4 eventsの情報を読み直して自薦他薦で担当者を決める。いずれのeventも総合的なscienceの知識と応用力を要し、かつ、専門用語で書かれた多くの資料を読む読解力を要する。とりわけForensicsとWrite It Do Itの2つは、英語力は言うに及ばず、event中において、コラボレーション能力、コミュニケーション能力、想像力、創造力、洞察力、判断力、行動力が試されることなどを考慮する。
(1)Forensics:Kazuha & Masahiro
(2)Write It Do It:Keitaro & Naoki
(3)Game On:Hiroyuki & Shunnosuke
(4)Helicopters:Yu & Seiko
Step 4 eventsの準備におけるリサーチについて。Collecting Data→Observation→Hypotheses→Verification(Inductive approach)とHypotheses→Verification (Deductive approach)について考える。

3. Homework
(1)速やかに2017 SONTまで、どのようにリサーチを進め、準備・対策をするか、events全体とevent ごとのスケジュールを作る。
(2)各eventの担当者2名は、上記スケジュールに沿って活動を始める。以下のOfficial Siteの情報を読み直し、ディスカッションを重ねて細部までしっかり理解する。Session 2で進捗状況につきプレゼンテーション(10分)する用意をする。
Science Olympiad
2017 Division C Events
Forensics(Kazuha, Masahiro)
Write It Do It(Keitaro, Naoki)
Helicopters(Yu, Seiko)
Game On(Hiroyuki, Shunnosuke)
(3)全員が揃って、進捗状況についてディスカッションする機会を設ける。日本語で良いが、必ず一部を英語で行い、英語の先生やALTを招き英語についてコメントを受ける。
(4)本戦中の指示を理解するため、リスニング強化をする。アメリカの高校生向けテレビ・ドラマやインターネット上のSONT関連の動画を視聴すると良い。

―SESSION 2―

16:00 to 18:00 pm May 9, 2017.
At Gifu Senior High School.
1.英語研修活動
Step 1 “百折不撓 Project”プレゼンテーション・ディスカッション。前回出されたHomeworkについて、各event担当者2名がプレゼンテーション(10分)、質疑応答・ディスカッション(5分)をする。(全60分)(*11)
Step 2 各eventの
procedures/regulations/directions/evaluationの細部情報をきちんと理解し、十分な準備・対策を練る。2017 SONT Official Site以外のサイトでも各eventに関する重要な情報があるのでチェックする。(*12)WIDIについては本戦さながらの練習に着手する。
Step 3 2017 SONTまでの残された時間でどのようにリサーチを進め、準備・対策をするか、Research PlanとScheduleを書き直す。
2. Homework
Step 3のResearch PlanとScheduleに従い、リサーチを進めて準備を進める。前回のHomeworkに倣い、グループ全体で進捗状況につき意見交換し、英語でディスカッションし、指示を聞くためのリスニング強化をする。Good luck!  

今年度の県立岐阜高等学校8人の参加者も、限られた時間を有効に使い、eventsに関する膨大な英語資料を読んで理解し、準備し、本戦に臨みました。理系の学生は英語が苦手である、筆者が教鞭を執っていた時によく耳にしたことがありますが、そんな言説がいかに根拠の無いものであるか、本英語研修においても十二分な証拠を得ることができました。

人は関心事に飽くなき探求をします。県立岐阜高等学校の8名の参加者の目下の関心事は2017 SONTの4 eventsに参加し好成績を収めることです。探究心は日を追うごとに高まり、2回のSessionsとHomeworkにおける膨大な量の英語活動を難なくこなしていきました。

今回の研修では、過去2年と同様にscience科目担当の先生が参加しましたが、英語担当の先生も参加したことは前回と前々回と違い特筆するところです。矢追雄一教諭(生物)と杉山晴美教諭(英語)がタッグを組んで参加者らの相談に応じ、その効果は大でした。高等学校の英語の授業の一部として、英語の先生と英語以外の科目の先生が共同で担当する授業を作れば、様々なテーマでプロジェクトを組んで英語で発信する機会を増やすことができます。英語のみならず他の教科の授業も発信型モードに変えることになるかもしれません。

また、今回は岐阜県など学校を取り巻く地域社会のサポートがありました。特に、Forensics担当の2名は岐阜県警察本部に赴き、鑑識の専門家から犯罪現場の鑑識に関する様々な分析方法を説明してもらいました。その成果は2017 SONT のForensicsにおける2名の好成績に繋がったと確信します。

Helicoptersを担当した2名は、地元の模型飛行機を製造する会社を見学し、貴重な情報を得たようです。岐阜は昔から木工が栄えた所で、ギターなどの楽器、野球のバット、(*13)模型飛行機や紙飛行機を作る名工がおり、もう少し時間があれば、さらに多くのことが学べたことでしょう。

本コラム第99回の昨年度の本研修報告で述べた通り、SOの目的の一つに K-12におけるscience core curriculumの開発・改善・推進があります。すなわち、これらのSO eventsは、アメリカのscience core curriculumの根本的な考え方が秘められているということでしょう。Scienceの諸分野のみならずそれ以外の分野が重なり合っていること、問題発見解決型、そして、何よりも現実社会と密接に関連していることなど、その目論むところは明白です。

一言で言えば、本コラム第98回で述べたアメリカの諸分野に影響を与えたpragmatismが全てのevensの根底にあります。現実社会から隔離された非現実で抽象的なものではなく、現実に根ざしたものを目指す、それがアメリカのK-12におけるscience core curriculumのいわばcoreの屋台骨で、その範を本コラム第82回で紹介したHarvard Universityなどアメリカの有名大学が開発してきたcore curriculumが示しているように思えます。(*14)

先月、2017年度Nobel賞各部門の受賞者が発表されましたが、Nobel化学賞の一人Joachim Frank氏は、The Franklin Instituteのサイトの説明によれば、詩人であり短編作家であり、詩と短編と複雑きわまるヒトの心臓の究明には同じような洞察力が不可欠と言っています。また、Nobel医学賞の受賞者の一人Jeffrey C. Hallについての記事 “Jeffrey C. Hall Says Nobel Prize‘Unexpected’” を見ると、いわゆる象牙の塔にこもって研究していた科学者ではないという印象を受けます。引退しているようですが、Harley-DavidsonのTシャツ、“What-a-hell is that!”などの表現から察するに、おそらく、様々なものごとに関心を持つ人物でしょう。

10月号のインタビューの中で、県立岐阜高等学校の生徒さんの一人がアメリカのSONT参加者は全員市販のキットのようなものを持ってきていたと驚いていましたが、本コラム第99回で指摘したように、また、今回の研修でも触れたように、全eventsについて無数のサイトがあり、そこではどのように対処するかどのような既成のキットがあるかを紹介しています。Bridge Buildingというeventを例にしてみます。実際の橋作りは、白紙から始めるのではなく、過去から現在まで作られてきた橋を参考にするでしょう。それらの長所短所を洗い出し、現存する技術を改善し、その先の技術を目指すでしょう。先端技術です。同様にアメリカの参加校は、既存のキットを利用し、さらに強度のあるbridgeの作成を目論んでいるものと思えます。

これがまさにアメリカのpragmatismの本髄と言えるかもしれません。使えるものは使う、ということです。研究も同じです。先行研究を調べてその先を目指します。先行研究はきちんと引用するように、すでにあるものの特許権は尊重し、その先のものについて問題発見解決に励む習慣をつけようとしているものと考えます。

残念なことには、県立岐阜高等学校の生徒さんには十分な時間がありませんでした。しかし、Helicoptersのeventなど、もし時間があれば、鋭い洞察力を持った彼らが岐阜にいらっしゃる模型飛行機や紙飛行機の名工とコラボして、アメリカのキットなど問題にならない素晴らしいキットができていたかもしれません。そしてそのことにより岐阜県という宝の山が海外にも知られる結果になりえます。今回そうした名工と話しができたことは、その一歩としての布石と言えるでしょう。

第99回で述べましたが、日本の強さは応用力にあります。今回のNobel医学賞の受賞者たちの、生物の体内時計に関連する"molecular mechanisms controlling the circadian rhythm"の研究は、様々な分野の発見の応用があって初めてたどり着いたもの、よって医学に限らず多くの分野の発展の基礎になるための研究であるとの結論に結びついたものと思われます。この意味で基礎研究なのでしょう。厳しい顧客の意見に応えるために改良に改良を加えてモノ作りをしてきた日本人の基盤は応用力でしょう。来年の科学の甲子園全国大会優勝校にはさらなる健闘を期待します。

(2017年10月10日記)

 

(*1)国立研究開発法人科学技術振興機構主催科学の甲子園全国大会Official Site
(*2)県立岐阜高等学校Official Site
(*3)2017 Science Olympiad Official Site
(*4)本英語研修は2015年度に科学の甲子園全国大会優勝校への副賞として発足し、筆者はその担当者として、CIEE日本代表部根本斉氏と共に企画・立案・実践に携わってきました。
(*5)Science Olympiad National Tournament (全国大会)があるのはDivision BとDivision Cのみです。Division Aには学内(intra-school)または学校間(interscholastic)の競争があるようです。小学校、中学校、高等学校を通した一貫プログラムであることが窺えます。
(*6)Troy High School カリフォルニア州Los Angeles近郊の公立高校で、過去にも複数回Science Olympiad National Tournamentで優勝しています。生徒の多くはアジア系アメリカ人です。
(*7)研修は英語で書かれたシラバスに沿っておこなわれ、活動は原則英語ですが、eventsのルールなど勝敗に関わる重要な情報については日本語で説明してもらい、きちんと理解しているかどうか確認しました。
(*8)百折不撓(ひゃくせつふとう)何度失敗しても負けずに立ち向かうこと。この漢字をそのままのT-shirtsを作り着用したらアメリカでも関心を引くかもしれません。海外で、ひらがな、カタカナ、漢字のT-shirtsをよく見かけます。
(*9)CIEEが購入し、参加者と関係者に配布された拙書(テキスト)『Do Your Own Project In English プロジェクト発信型英語 -Volume 1』(鈴木佑治著 南雲堂)を使用しました。Unit 1 “Warming Up: Introducing Yourself and Others.” / Unit 2 “Self-appeal.” / Unit 3 “Mini-project, Presentation, and Discussion.”の3Unitsを中心に若干修正を加えました。尚、本テキストは、筆者が、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、立命館大学生命科学部、同薬学部の在任中の24年間に発信型英語プログラム用に開発・実践し、TOEFLテストやTOEIC® テストでもその効果は実証されました。小学生、中学生、高校生の発信型の英語プログラムにも参考になると確信しています。
(*10)SONTではTournament終了後にSwap Meetingと称し、参加者同士がお互いの健闘を讃えて、事前に用意したギフトを交換する親睦会が催されます。積極的にコミュニケーションに参加し、アメリカ人の友達を作る良い機会です。
(*11)『Do Your Own Project in Englishプロジェクト発信型英語 Volume 1』Unit 8 Mid-term mini-presentationの「中間発表のフォーマット」(P41)に倣い司会を立てて進める。
(*12)アメリカの高校生や先生や一般人がそれぞれのeventに関するノウハウを具体的に披露している動画やサイトが沢山あること、特に、組み立てる競技は既成のスキットなどがあることも伝えました。しかしこれらの情報に目を通すには時間が必要で、日本の参加者には2か月弱の時間しかありませんので厳しいでしょう。過去2回の報告で述べましたが、それ以前にこうした情報に触れておく必要が大切です。英語学習の一環として取り入れることを勧めます。
(*13)日本のプロ野球選手はもちろんのこと、メジャーリーグで活躍している選手のバットを作る名工がいます。
(*14)本コラム第82回「自分の関心事を追求し、自分に合う専攻を探させるアメリカの大学のカリキュラム」を参照してください。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。